校長 その日その日

Principal Day by day

校長 その日その日

 

2023/04/11

(4/11)子供の運命は、つねに…(令和5年度版)

今年度、おかげさまで校長2年目となる松﨑 慶喜(よしのぶ)です。

年度初めにあたり、昨年度の増補版として再掲いたします。

 

巷では、本校がこの春の難関大学の合格者数で取り沙汰されたようですが、校訓「愛 知 和」のもと、人間教育を究極目的とする教育理念が揺らぐことはありません。

 

本校の原点・大宮洋裁女学校が創立されたのは、今から81年前の1942年(昭和17年)

 

創立者・松﨑庚子良(こうしろう・1900~1976)が本校設立を思い立ったのは、南米ブラジルでの実業(農業技術指導)経験がきっかけです。

↓ 1966年撮影

ブラジルの女性の社会的自立を目の当たりにした庚子良は、日本でもそれを実現しようと帰国、1942(昭和17)年に、青年女性への洋裁=洋服製作技術の教育を始めたのです。

 

折しも太平洋戦争の開戦間もないころで、資金・物資あらゆるものが不足し、ようやく校舎(現さいたま市大宮区東町付近)を完成させたものの、当局の要請により、施設の一部を軍需生産に提供せざるを得なかったそうです。

 

戦後ようやく学校として軌道にのると、女性の教養・人格そのものを高めようと「大宮開成高等学校」(女子校)に発展させ、現在の堀の内町に移転し今日に至ります。

 

庚子良は、私が物心ついた頃に物故となったのでよく分からない部分もあるのですが、当時から心に刻んでいた言葉があったようです。

 

それは、「子供の運命は、つねにその母がつくる」。

現代ではもちろん、母だけでなくと言うべきですが、当時の価値観からはやむを得ません。

 

しかし私は、「」を「」あるいは「大人」と読み替えて、今なお普遍的な言葉だと思っています。先行き不透明なロシア・ウクライナの情勢が、このことを失いつつある状況だからです。

 

世界で3億の子供が学校に通えておらず、そのうち1億人は紛争や自然災害の国にいる子供だということです※。日本の全人口に匹敵します。世界の就学状況報告書発表  (unicef.or.jp)

 

私は特定の立場をとりませんが、この両国でなくとも、教育の空白は、国の未来を失うことだと断言できます。

満足な教育を受けられない世代・国家が、貧困や紛争の当事者になりがちなことは、いやというほど歴史が語っているからです。

 

子供の運命すなわち未来を、創るのも壊すのも大人。何という皮肉でしょうか。

 

命の心配をせずに学びが許される日本の私たちがすべきことは何か。創立者の座右の銘に従うならば「大人の過ちを次世代に引き継がない」ことです。

 

令和5年度、本校は国際教育プログラムを一新します。海外研修の再開はもちろん、3カ月ターム留学・セブ島語学留学・校内留学プログラムetc.……

 

国際教育の重視も、創立者の経歴をみれば必然的に建学の精神に織り込まれていたのだろうと、いまさらながら思います。

 

画面越しではなく、人と直に接するから、人のぬくもりを感じ、ときに葛藤し、相互理解が生まれる。

そこにはネットの魑魅魍魎の情報が介在する余地はなく、その経験は、チャットAIなぞの力を借りるまでもない、自分だけの表現を生むはずです。

 

過日の入学式で私が述べた「自分の目で、耳で、足で確かめる学び」=校訓「愛 知 和」の「知」の精神を、今年度の生徒に期待しています。