校長 その日その日
Principal Day by day
Principal Day by day
2024/05/04
『今週の大宮開成』でもすでにお伝え済みの4/30芸術鑑賞会『EDDIE』。
私は当日、ソニックホール最上階席の最後列、父母の会の役員皆様の近くで観覧させていただきましたが…。
こんな経験はいつ以来か…後半から “視界が滲んで見えなく” なりました。父母の会の役員さんたちもハンカチとティッシュが手放せなかったようです。
あらすじは『今週の大宮開成』にもあるとおり、チャンピオン量産トレーナーの異名をとった、伝説のボクシングトレーナー、エディ=タウンゼント氏の半生。
私が視界を失ったのは、次の場面です。
エディ氏のジム所属のある選手。思うように結果が出ず、次こそタイトルを…というときに、家庭の事情でボクサー人生を諦めざるを得ず、彼はエディ氏に別れを告げます。
「俺は子どもの頃から何をやってもダメだった、大人はみな俺のことをクズだと言って認めてくれなかった。でもここまでやれたのはエディさんのおかげ…」
それに対し、エディ氏は憤慨して放ちます。
「お前をクズだといったヤツを、今すぐここに連れてきなさい!!お前はクズなんかじゃない、誰よりも一生懸命、今までボクシングをやってきたじゃないか…」――
――実際に、エディ氏は来日した際、日本のボクシングトレーナーが選手を暴力的に叱咤するのに疑問をもち、
「その選手にしかないいいところを褒める」「負けたときの選手にこそ寄り添い、励ます」「トレーナーに大切なのはネエ、ラブですよ。ハートのラブ」が口癖だったそうです。
元世界チャンピオンの井岡弘樹さんも、エディ氏に薫陶を受けた一人。
井岡さんの初のタイトル防衛戦を前に、エディ氏は不治の病に。しかし井岡さんは「僕のトレーナーはエディさんしかいない」と代理トレーナーを拒み、エディ氏不在のリングで苦戦の末、みごと防衛戦を勝ち取ります。
それを見届けるように、エディ氏は静かにこの世を去ったのだそうです(1988、享年73)。
終演後、私は場内が明るくなって困惑。瞼が腫れている気がしたからです。それでも気を取り直し(生徒に顔を見られないように笑)舞台袖へ…。
今回の「劇団イング」を主宰し、エディ氏役を務めた藤井つとむさんに、お礼を申し上げたかったからです。
私は「 “この世にクズはいない” は教育そのものだと思った、後方席はすすり泣きの渦だった」とお伝えし(話しながらまた前が見えなくなる)、すると藤井さんは、
「ありがとうございます、劇団員にも伝えておきますね」とさりげなく話され、またそそくさと小道具の片づけに戻られていったのでした。とても優しい瞳でした。
――そこにいたのは、もしかするとエディ氏だったのではないか。
校長の立場にいると、少なからず生徒の悩み・ご家庭の辛苦に接します。2100人2100家庭全てが毎日笑顔、というわけにはいかないのは、当然といえば当然です。
でも一人一人が、日々一生懸命、自分と戦っている。その背後に、それを見守るしかないご家族がいらっしゃる。
こんなに頑張っている生徒たちに、
間違っても “クズ” などと、誰が言えるのか?
磨けば光るものを、 “クズ” にするのはいったい誰なのか?
翌日。ある生徒「(泣きたいのをこらえていたところ)周りが泣き始めたので、安心して泣くことができた(笑)」と告げてくれました。
劇団イングさん。本校生には伝わっていると思います。
終幕時のごあいさつ「今日が公演2197回目」?!――どうかこれからも、たくさんの生徒に生きる勇気を与えてくださることを期待しています。
明日5日は子どもの日ですね…。