校長 その日その日
Principal Day by day
Principal Day by day
2024/08/28
26日(月)、本校は「開始集会」。夏休み明け、かつ前期期末テスト間近な中高生の心を推し量って、次のような講話をしました(ほぼ全文)。
――「色と皆さんの人生」について話します。
夏休み中、私は通勤用の自転車を手入れしていた。大学の頃から乗っているのでキズだらけ。だが結構鮮やかな赤色の自転車だ。
キズをよく見ると、赤色の下地に、白い色が見えている。鮮やかな赤に発色させるために、下地には白が塗られているのだった。
色のつながりで、焼き物。お茶碗とか。白地に紺や赤の絵付け模様のものを見たことがあるだろう。ああいうのは「釉薬」というもので着色している。
赤の釉薬は、日本では今から400年前の江戸時代に、酒井田柿右衛門という人がその技法を確立した。
↓ 柿右衛門様式「色絵花鳥文大深鉢」(重要文化財・江戸時代:17世紀。国立博物館ウェブサイトから)
赤い色は難しいのだそうだ。なぜか? 釉薬というのは、様々な岩石(鉄・銅・マンガン・コバルト等)を粉砕して溶いた液体で、一度焼いた焼き物にそれを塗ってもう一回高温、1000℃くらいで焼くのだが、何色になるかは化学変化次第、つまりどんな成分の釉薬が、どんな色を発色するかは、焼くまでは分からないのだ。
皆さんは日ごろ、先生や親御さんから「将来何がやりたいんだ?どんな大学が目標なんだ?」としつこく訊かれているだろう。
決まっている・はっきりしている人はもちろん結構。
だが「目標?ないなあ、夢?やりたいこと?…放っておいてよ」とうんざり気味の人もいるのではないか。
私は、夢や目標がまだないことは、そんなに悪いことではないと思う。
こういう調査がある。「高校生の時に夢見ていた職業に就けた社会人の割合は……2割以下」。8割以上の人は、高校の時なりたかった職業には就いていない。※
※児美川孝一郎『自分のミライの見つけ方』2021旬報社
つまり、それだけ将来なんて流動的なのだから、すごく先の将来のことを決めていなくても悲観しないことだ。
ただ、目標や夢を「色」だとしよう。
目指す「色」は、今は決まっていない。だからこそ、幅広い勉強・経験を今のうちにしておくべきだ。
なぜなら、私の自転車が鮮やかな赤なのは、下地に白が塗られていたからだし、柿右衛門の茶碗の赤だって、思い通りの赤が発色するためには、相当いろいろ混ぜ物で試したはずだからだ。
そもそも何も塗らなかったら、発色さえもしない。
つまり今の勉強や経験は、まだ決まっていない目標や夢の下地の色。化学変化を起こす前の釉薬だ。何色を発色するかは分からないけれども、一応塗ってはおいたから、後で作者自身も驚くような、歴史に残るような、鮮やかな色になった。
それどころか焼き物には、焼く際の偶然のヒビとか不純物がくっついて、作者が意図しない色や模様に仕上がって、逆に歴史的な価値が出た作品もたくさん伝わっている。
今の皆さんの価値観で「意味がありそう・役立ちそう・なさそう」と物事を切り捨てないこと。「毎日くすんだ色のような生活だ…」(笑)などとがっかりしないこと。
今日これからの行動が釉薬となって、将来素晴らしい色を発色するかもしれない。ましてやあなたの失敗=ひび割れこそ、あなたに人間的な魅力をもたらすかもしれない。
9月、今の学年の残り半分がスタート、充実させてほしい――。